意思決定を委ねるという選択
「最近、決裁が自分に集中しすぎていて、会議のたびに“判断待ち案件”がたまっていくんです」
組織コンサルタントとして現場を回っていると、こんな声をよく耳にします。
メールの承認、見積もりのOK、採用の可否、トラブル対応──気づけば「決めること」だけで1日が終わってしまう。しかも、どれもそれなりに重要そうに見えるからこそ、つい自分で抱え込んでしまうのですよね。
一方で、部下側からはこんなつぶやきも聞こえてきます。
「結局、最後は上が決めるから、自分で判断していい範囲がわからない」
「任せると言われるけれど、あとからジャッジが差し戻されると怖い」
意思決定がリーダーに集中すると、上も下もどこかモヤモヤした状態になり、組織のスピードも学習も鈍っていきます。
■なぜ意思決定は“渋滞”するのか
意思決定が渋滞する背景には、「リスクを最小化したい」という善意の意図があります。
特に日本企業では、「万が一のミスがあってはならない」「お客様に迷惑をかけられない」という意識が強く、結果として「上に上げておこう」が無意識の習慣になりがちです。
ただ、環境の変化が激しい今、「すべてを上で決める」やり方には限界があります。
情報の変化スピードに、意思決定のスピードが追いつかない。現場で起きていることと、決裁している人の感覚とのギャップも広がっていきます。
リーダー自身も、「本当はもっと中長期のテーマに時間を使いたいのに、日々の判断に追われてしまう」というジレンマを抱えがちです。
■「全部自分で決める」リーダーの落とし穴
真面目な管理職ほど、次のような思考に陥りやすいように感じます。
・自分が決めたほうが早いし、質も担保できる
・部下に任せて失敗したら、自分の責任になる
・“決定権を持っている感覚”が、自分の価値だと思ってしまう
短期的には、このやり方でも業務は回ります。
しかし、中長期で見ると「決める力」がリーダー本人にしか蓄積されず、組織としての意思決定能力が育ちません。
本来、管理職の役割は「自分が全部うまくやる人」ではなく、「チーム全体の判断力を引き上げる人」のはずです。
そのためには、どこかのタイミングで「自分で決める」から「任せて決めてもらう」へと、発想のギアチェンジが必要になります。
■意思決定を委ねるための3つの視点
とはいえ、「じゃあ、どの意思決定を部下に任せればいいのか?」という問いは簡単ではありません。
現場でご一緒するとき、私は次の3つの視点で整理することをおすすめしています。
1つ目は、「現場に一番近いのは誰か」という視点です。
お客様と直接やり取りをしている営業、プロダクトに日々触れているエンジニア、メンバーの表情を間近で見ているラインマネジャー。こうした人たちのほうが、リーダーよりも解像度高く状況をつかんでいることは少なくありません。現場に近い人が判断したほうが、早くて現実的な意思決定になる領域は、思った以上に多いものです。
2つ目は、「失敗したときの影響の大きさと、やり直しのしやすさ」です。
取り返しのつかない一発勝負の案件と、やり直しが効くトライアル的な案件では、任せ方も変わります。リスクが限定的で、かつ小さく学べる領域から、意識的に部下に委ねていくとよいでしょう。
3つ目は、「判断基準がどこまで共有されているか」です。
“基準があいまいなまま任せる”と、どうしても「それはちょっと違うんだよな…」という結果になりやすく、双方にとってストレスです。逆に、判断の前提となる価値観や優先順位、NGラインがある程度言語化されていれば、かなりの部分を安全に委ねられるようになります。
■「意思決定シュミレーション研修」で練習する場をつくる
頭ではわかっていても、「任せる」やり方は、やはり練習なしには身につきません。
そこでご提案しているのが、「意思決定シュミレーション」研修です。
この研修では、管理職・マネジャー向けに、実際の現場で起こりそうな事例をもとにしたケーススタディに取り組んでいただきます。
・自分ならどう判断するかをまず個人で考える
・どこまでを自分が決め、どこからを部下に委ねるかを議論する
・その判断の背景にある「基準」や「価値観」を言語化する
といったプロセスを繰り返すことで、「なんとなくの経験則」だったものが、少しずつ共有可能な“意思決定の型”へと変わっていきます。
また、貴社の状況に合わせて事例をカスタマイズすることで、
・自社ならではのリスクの捉え方
・自社の顧客との関係性
・評価制度や権限構造
といった文脈も織り込みながら、「現場で使える判断の練習」を行うことが可能です。
「最近、意思決定が自分に集中している気がする」「管理職層の判断力を底上げしたい」と感じていらっしゃるようでしたら、一度“練習の場”としての研修を検討してみるのもひとつの選択肢かもしれません。
【まとめ】
・意思決定がリーダーに集中すると、スピードも学習も“渋滞”しやすくなります
・「現場への近さ」「リスクと可逆性」「判断基準の共有」が、任せる範囲を考える鍵になります
・管理職は「自分で全部決める人」から「チームの判断力を引き上げる人」への転換が求められています
・意思決定シュミレーション研修は、任せる・決めるのラインを対話しながら確認し、組織としての意思決定の型を育てる場になります
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